ライブ

97/10/15 Niacin at ブルーノート東京

日程:

 97年10月15日(水)

場所:

 ブルーノート東京

メンバー:

 ビリー・シーン(b), ジョン・ノヴェロ(org,key), デニス・チェンバース(ds)

 今回はMR. BIGなどで有名な、ビリー・シーンのプロジェクト、ナイアシンをレポートする。これはオルガンのトリオで、プログレ・フュージョン(っていったら本人怒るかな)といった感じのインストゥルメンタルのバンドである。マイク・スターン以来、久々のブルーノート東京だ。

 6時10分前に会場に到着すると、いきなりレジのところにデニスがいた。買い物をしに外へ行きたいようで、店員とやりとりしていた。若干やせたように見えた。なんと言って話しかけようかと思う間もなく、出ていってしまった。

 店員に案内してもらい、ビリー・シーンの前方2mの席を確保した。今回は楽器少年風ステージ前覗き込み機材チェックは割愛した。

 ほぼ定刻に3人が登場し、ステージが始まった。曲はアルバム「ナイアシン」から7〜8曲、アンコールはキープ・ミー・ハンギング・オンだった。このバンド、アルバムはスタジオが1枚、ライブが1枚と持ち曲が少なく、主だった曲はやってしまったので、9時からの2セット目も同じような構成と思われる。アンコールも含めて1時間とちょっとのステージだが、MCはビリーの「サンキュー」のみで、曲紹介もメンバー紹介もなかった。

 全体の印象は、ブルーノート東京での演奏を収めたライブ・ビデオとあまりかわらない。プログレのようなフュージョンのような、独特のスタイルを持ったバンドである。トリオなだけに楽器の分離も良く、良い意味で非常にタイトな印象を受けた。

 ベースのビリーはデイブ・リー・ロス・バンド、MR. BIGなどで有名だ。楽器はヤマハのビリー・シーン・シグネーチャー・モデルで、これはプレシジョン・ベースにハムバッキングのフロント・ピックアップを付けたようなモデルだ。この楽器の特徴は、フロントとリア(ミドル?)のピックアップ出力を完全に独立して取り出せるところにある。ビリーはこれを2台のアンペグのアンプにつっこみ、スピーカを含め完全に2系統にしている。エフェクトはコンプのみで、足元には正体不明のフットスイッチが1個のみというシンプルさである。このスイッチだが、踏んでもほとんど音が変わらないという、なんだかわからないものであった。このベースはロング・スケールのはずだが、ビリーのガタイがでかくてどうしてもミディアムスケールに見えてしまう。音はティム・ボガードなどを思い起こさせる軽く歪んだ音である。ちなみに前述の「キープ・ミー・ハンギング・オン」は、もともとはシュープリームスの曲で、ベースがティム・ボガード、ドラムがカーマイン・アピスというリズム体を擁したヴァニラ・ファッジがカバーしてヒットさせている。ビリーはティム・ボガードが好きだとインタビューで語っていたので、彼の原体験といえる曲なのではないか。また、この曲はロッド・スチュアートもカバーしてヒットさせているが、この時のリズム体はカーマイン・アピスと、ジェフ・ベックのブロー・バイ・ブローでベースを弾いていたフィル・チェンだ。

 ビリーは演奏中、ボリュームとトーン・コントロールをかなりひんぱんに操作していた。市販品は2ボリュームとフロント・ピックアップのトーンの3コントロールのはずだが、上から2番目のボリュームと3番目のトーンをいじっていたので、1バランス、1マスター・ボリューム、1マスター・トーンかも知れない。ただし、これだとステレオなので2連のボリューム・ポットを使わなければならない。

 演奏の特徴は右手の3フィンガー、といってもフォークギターの奏法ではなく、右手第2、3、4指を使って高速でフレーズを弾き切る奏法で、32分のトレモロも3フィンガーでやる。タッピング、タッピング・ハーモニクス、右手フレット押えトリルなどを多用するが、典型的ライトハンドのフレーズである3連のたららたらら・・・はほとんど使わない。また、ミュートが素晴らしくノイズが非常に少ない。これは握って弾く左手のスタイルも関係していると思われるが、左手親指ミュートの使用は意外に少ない。とにかく音数が多く、弾きまくるベースであった。

 ドラムのデニス・チェンバースはPファンク出身で、ジョンスコ、ゲイリー・トーマス、トム・コスター、再編スティーリーダン、スマップなどで叩いている。世界5大ドラマー(誰が決めた?)のひとりである。セットはタムが1つ増えて3タム(浅胴)3フロア、シンバルはクラッシュ3枚とミニチャイナ、それにハイハットとライドだ。プレイは比較的おとなしく、以前のような「タイムは感がたより、音数が余るかもしれないけど押し込むぞ」といった攻撃が無くなっている。また、いわゆるハイテク系フレーズは少なく、16分の手順変化と6連系がほとんどである。怒涛のドラム・ソロも今回はなかった。しかし、グルーブは素晴しく、タイム感が良く、そこからスリップ・ビートが気持ちよくはまる。このスリップがピカイチ(死語)で、研究はしているものの、なかなかこうはうまくいかない。クロス・スティッキングもかっこ良くきまり、得意の2拍3連系パターンをキックは6連の連打で押し込む(ほとんど何を言っているかわからない)やつも随所で見られた。

 まとめると、「卓越したグルーブと個性的なフレーズ」といったところか。意外と似たドラムを叩く人がいない。デイブ・ウェックルやスティーブ・ガッドのフォロワーはごまんといるのに。(誰とは言わない)

 メンバーの技術は世界最高クラスで当然演奏はまとまっているが、編成上の問題やメンバーの個性の問題からか、どうも曲の印象が似通ってしまう。ジョン・ノヴェロのソロはどれも同じ印象だ。よくフュージョン系のインストの曲はどれも同じに聞こえると民間人に言われるが、さらにきびしい状況にある。次のレギュラーアルバムは苦しいかも知れない。

 しかし、こんなバンドでも女の子同士で来ている客が結構多いんだよね。なんでかな。

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Last Update : 2003/07/03