解説

J-POPS批評 A.S.A.P. / リトル・キッス

 むかしむかしに書いた文章です。古くてごめん。

 最近の(当時)J-POPSについて話していた中で、Hさんがかっこいいと言っていたのがこの曲だ。私はTVのCMで流れている、サビと思われる部分(いーますぐさあきすをしよーよー)しか知らなかった。というわけで、聴いてみた。Hさんは、A,Bメロは転調が多くメロディーが平板なのにサビはポップでその対比がおもしろい、というようなことを言っていたが、とりあえず聴いてみると確かにその通りで、「ここからあのサビへ行くかー」というのが最初の印象である。

楽器について:
 キーボードは、ピアノ、ブラス他の平均的な音で、A,Bメロのオルガンのみのシンプルなバッキングがなかなか良い。ギターはワウとフェイザーという古典的エフェクターを効果的に使っている。ブリッジのところのワウはかなり早く動かしているので、ひょっとするとLFO+VCFみたいなエフェクターを使っているかも知れない。ローディが手で動かしている可能性もある。(んなわけないか)こういったフィルターが周期的に変わるエフェクトはシンセでは普通なのに、単体のエフェクターではマルチエフェクターを除けば、知らないだけかも知れないが無い。ベースはシンセベースで、ベンドがかっこいい。最近のJ-POPSのシンセベースはかっこいいものが結構あるな。ドラムは基本的にローファイだ。まず、ハイハットがビットの荒い歪んだ音だ。この基本になるハイハットと、さらに品位の低いオープン・ハイハットの音色がフィルターのかけ方の違いで2種類有り、うまく使っている。ハンドクラップも低品位サウンドだ。また、2拍4拍のスネアは音量が小さめで、ハイハット、シンセベースのパターンと相まって8分音符のパルスが強く感じられる。楽器はこんな感じで、ギター以外は全部打ち込みだろう。

楽曲について:
 リズムは「ちょいはね」。曲の前半はフュージョンみたいで、転調もいっぱいある。それからキャッチーなさび(いーますぐさあきすをしよーよー)が来る。この対比がすごい。解析してみよう。

 まずイントロからしてキーがわかりづらい。ピアノのリフをCmと考えるとキーはCmでコードはサブドミナントであるが、この後AメロのDmに転調するのでトニックである方が考えやすい。ピアノのリフをFドリアンと考え、キーをFmとすればトニックになる。ブリッジはベースをDに置いて、Fmから半音下降でDmまで降りる「平行ハーモニー」といわれる手法だ。このイントロはかっこいい。出だしのサンプリング風ドラムからピアノのリフ、転調してブラスの半音下降とうまくできている。

 Aメロであるが、2回目にBメロへ進行するところのAb7はセカンダリー・ドミナントD7の裏コードで、D7からGmへドミナントモーションするD7の代理である。代理を使うことでルートはA・Ab・Gと半音進行になりスムーズになる。2回目のここはなかなか巧妙でかっこいいが、1回目にトニックのDmへ戻るのはかなりきびしい。1、2回目でメロディを変えたくないためこうしたのかも知れないが、かなり違和感がある。

 Bメロはこのセカンダリー・ドミナントの使用で平行調のFに転調したと考える。最後のCm7・F7はノンダイアトニックであるがBbのツーファイブと考え、ここでBbに4度転調したとみなす。基本的な進行はドミナントの連結だ。解決させないで並べ浮遊感を大きくさせているが、ルートの進行を一般的にしてやや安定感を出したといったところだろうか。

 サビへの進行はBb7からFmで、Bb7はsus4の4〜3の導音が不自然なくらいブラス(パッド?)で強調されておりドミナント感をあおっている。なのに、Ebに解決せずFmに転調してしまった。ここのBb7はキーがFmでのトニックの代理になるものの、ここもかなり浮遊感が大きい。

 サビのコードは一般的すぎて使いづらいと思われる1m / 7b / 6bの行ったり来たりである。これにCMで有名なキャッチーなメロディーが乗っている。前半のコード進行の浮遊感の大きさとこのサビとのギャップが激しい。

 そのほか全体を見回すと、さびからイントロのブリッジに戻るところのブリッジ2は、リズムパターン、コードなどAメロに戻すのに苦し紛れに挿入したといった感じで、まるでアマチュアバンドだ。

 全体に調性の危ないところは、メロディーラインがうまく補っている。例えば、Bメロの3段目ではD〜Dbが挙げられる。途中にピアノのスローパートも挿入し、緩急を付けている。

 全体に、いなたいなーという印象が大きい。まったくJ-POPSは恐ろしい。

作曲者について:
 後藤次利はもともとベーシストである。サディスティック・ミカ・バンドに小原礼の後任として参加し、サディスティックスで好評を博す。その後はスタジオミュージシャンとして活動し、ギャラはトップクラスだそうで、たしか1曲40万と聞いたことがある。ちなみにスピードの「ボディ・アンド・ソウル」を弾いた青木智仁さんは20万くらいだそうだ。最近は作曲・編曲がメインで、ぱっと思い出せないが有名な曲がいっぱいある。「セーラー服を脱がさないで」などおにゃんこの曲の多くは彼が書いている。うらやましいことは奥様で、昔は木之内みどり、今は河合その子だ。木之内みどりといっても若い人は知らないだろうが、この事件の時はスタジオミュージシャンに憧れたものだ。

総評:
 かなり凄い曲で、これを歌物でやってしまう後藤次利や、企画した人たちはえらいとこを狙ったもんだと思う。友人の女の子らに「この曲はカラオケでは歌いづらいでしょ」と聞いたが、特に違和感は無いようだ。へんな音楽はへんだと思わないとマズイよね。

 子供の音楽教育のためには良くありません。聞かせないようにしましょう。

A.S.A.P. / リトル・キッス(工藤静香・石橋貴明 97年)
 as soon as possible / Little Kiss
 music: Tsugutoshi Goto

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Last Update : 2003/07/08