解説

歴史 Zildjian / SABIAN / istanbul

 ジルジャンというのはアルメニア語で「シンバル職人の息子」を指す。

 アベディス(Avedis)はトルコ皇帝に仕える錬金術師だったが、たまたまできた合金をシンバルに応用することで、画期的な音色と耐久性を得た。彼は皇帝御用達のシンバル職人となり、トルコ皇帝よりそのジルジャンという名を授けられた。その後アベディス・ジルジャンは皇帝の元を離れ、1623年にジルジャン社を創業。一族は代々トルコはイスタンブール(コンスタンチノープル)で、シンバルを製造していた。

 シークレットアロイ(秘密の合金)の製法は一子相伝とされており、ジルジャン家に代々受け継がれている。

 1865年、アベディス2世がこの世を去ったとき、ハルチューンとアラム(Aram)という2人の息子がいたが、彼らは秘伝を受け継ぐには幼すぎた。そこでアベディス2世の弟であるケロップ(Korepes)が暫定措置としてジルジャンを受け継いだ。これが後のKジルジャンだ。

 やがて2人は成長したが、ハルチューンがジルジャンを継ぐことを拒否したため、ケロップはアラムに秘伝を伝授した。20世紀初頭の中東の政情は非常に不安定だったため、アラムは1909年にブカレストに工場を新設した。ケロップの工場はKジルジャンとしてイスタンブールに残り、アラムはAジルジャンを名乗った。

 ケロップの死後は孫のミカエル(Mikael/Mikhail)がKジルジャンを継承した。

 ハルチューンの長男であるアベディス3世はシンバル製造業から離れ、トルコを逃れてアメリカに移民し商業を営んでいた。子供の無かったアラムは、世継ぎとしてアベディス3世を指名したが、アメリカで商業的に成功していた彼は難色を示した。結局、アメリカに工場を移すことを条件に継承を受諾した。こうして29年、アメリカにジルジャン社が設立された。そして35年、アベディス3世の息子であるアーマンド(Armand)へと秘法は伝授される。

 第二次大戦後はアベディス3世の息子、アーマンドとロバート(Robert)の兄弟がジルジャン・シンバルの繁栄を築く。アーマンドは米国で生まれたジャズ音楽において、ドラマー達と連携して新しいシンバルを開発し、成功を収める。これがAジルジャンのサクセスストーリーだ。このころにハイハット、ライド、シズルなどが開発された。

 Aジルジャンの成功を見て。Kジルジャンもジャズ向けのシンバルを製造し始める。当初はイマイチだった品質も、徐々に向上していく。このころのシンバルがトルコK、オールドKと呼ばれ、Aジルジャンが失ってしまったハンド・ハンマーの技術を有していた。後にイスタンブールを設立するアゴップ・トムルチュク(Agop Tomurcuk)とメフメット・タムデール(Mehmet Tamdeger)は、このころの職人だ。

 67年、ロバートはカナダに、大量生産に向けた近代的な工場を設立し、ほぼ同時期にKジルジャンを買収した。Kジルジャンの職人の一部はイスタンブールからカナダへと移住し、Kジルジャンのブランドでシンバルを生産した。この時代に作られたKジルジャンがカナダKと呼ばれる。そのかたわら、ロバートは廉価版(Zilcoなど)の開発を行い、カナダ工場で量産し成功する。

 77年、アベディス3世に代わってアーマンドがAジルジャンの社長に就任。Kジルジャンのイスタンブール工場は閉鎖される。

 アベディス3世が79年に死去。ロバートは、ジルジャンの名前を使わないことを条件に、カナダの工場と職人を相続する。彼は、3人の子供、Sally, Billy, Andy の名前からとったセイビアン(SABIAN)というブランドを立ち上げ、82年に生産を開始する。

 Kジルジャンの工場が閉鎖されたイスタンブールでは、その職人を集めて、アゴップとメフメットが81年にアゴップ社を創設した。そのブランド名は変遷の後にイスタンブール(istanbul)に落ち着く。96年にアゴップが亡くなると、メフメットが独立し「istanbul Mehmet」社を設立する。職人として働いていたアゴップの息子であるサルキスは、イスタンブールのブランドを継承し「istanbul Agop」社となる。よって、現在のイスタンブールシンバルには、メフメットの工場で作られる「Mehmet」と、サルキスの「Agop」の2種類がある。

 02年にアーマンドが死去。娘のクレイギー(Claigie)とデビー(Debbie)が秘法を受け継ぎ、社長にはクレイギーが就任した。

 セイビアンのロバートは、社長をアンディに引き継いで会長に退いた。そして13年、ロバートも逝去した。

 ジルジャン、セイビアン、イスタンブールはこんな関係なのです。

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Last Update : 2005/01/01