これを聞こうA-Z

第22回:S = Stevie Wonder

Characters / Stevie Wonder
(キャラクターズ / スティービー・ワンダー 87年)

収録曲:
 You Will Know / Dark'n' Lovely / In Your Corner / With Each Beat of My Heat / One of a Kind / Skeletons / Get It / Galaxy Paradise / Cryin' Through the Night / Free / Come Let Me Make Your Love Come Down / My Eyes Don't Cry

 
 50年ミシガン州に誕生。生まれながらに盲目であったが音楽に興味を持ち、5歳でピアノ・ハーモニカをマスター。11歳でモータウン・レコードと契約し、62年にデビュー作「アイ・コール・イット・プリティ・ミュージック」をリリース。63年の「フィンガーティップス・パート2」、66年の「アップタイト(エヴリシングズ・オールライト)」がR&Bチャートで1位となるなど、ヒット・シングルを連発する。しかし、これらはスティービーのオリジナルでは無く、モータウンお抱えの作曲陣が作ったものであった。スティービーは「盲目の子供歌手」という商品でしかなかったのだ。モータウンはこういった売り方を得意としており、マイケル・ジャクソンの「ジャクソン5」も「黒人5人子供兄弟グループ」という商品であった。こういったモータウンの商売に嫌気が差し、70年代から作詞・作曲に関心を持ち始める。そして、モータウンとの契約が切れると、今までに稼いだ金を使って「ホェア・アイ・カム・フロム」と「心の詩」の2枚のアルバムを作成した。これらに収められた自作曲が認められ、スティービーはアーティストとして認知された。そして商売上手なモータウンは、スティービーと再契約する。

 最初のアルバムは「トーキング・ブック」。ここから「サンシャイン」と「迷信」の2曲をヒットさせ、音楽的評価も一気に高まる。なお、ジェフ・ベックが「迷信」をカバーしたといろいろなところで書かれているが、これは誤りである。ジェフに提供した「迷信」を自分でも気に入ってしまい、ジェフには無断でレコーディングしてしまったというのが真相である。

 ここからの4枚、「Talking Book」「Innervisions」「First Finale」「Key of Life」が、彼の黄金期である。アルバムセールスは好調。音楽的評価も高く、グラミーもアルバムを出せば持っていった。頂点といえるのが、76年発表の「Key of Life」である。3枚組(当時)の大作ながら、ビルボード初登場1位で、12週にわたって首位を維持する。

 しかし、80年代にはいると、状況は全く変わるのである。

 電子音楽が市場を席巻するようになると、スティービーもシンセやドラム・マシンを取り入れるようになる。そうして85年に発表された「イン・スクエア・サークル」からは「パートタイム・ラバー」「オーバージョイド」などのヒットを放つが、過去のファンは離れていき、セールスもがくっと落ちてしまう。さらに87年の「キャラクターズ」が不評。それからのオリジナルアルバムは、95年の「カンバゼーション・ピース」しかないのだ。

 「パートタイム・ラバー」のオケを聞いて、あなたはどう思うだろうか。ハイハットが単調なのが印象的だ。通常はもう少しアーティキュレーションをつけるのだが。「キー・オブ・ライフ」など多くのアルバムで、スティービーは自らドラムを叩いており、そのハイハットにはかなり特徴がある。オープン・クローズのコントロールが、ドラムのセオリー無視に近い。それと関係があるかはわからないが、電子化アルバムにおけるハイハットのアレンジは、ちょっと変わってる。ハイハットに関しては、スティービー独自の考え方があるようだ。そこ以外の楽器のコントロールは特に変わったところは無いと思っているが、このハイハットのために打ち込み感が強い。というか独特のビートを生んでいる。

 今回選んだ「キャラクターズ」は電子期に発表された、評価の低い、失礼、少なくともセールスは芳しくなかったアルバムである。しかしながら、根底にあるメロディやハーモニーは確実にスティービーのもので、さらに完成度が高くなっていると思っている。アレンジも電子楽器を導入してはいるが、すっきりしていて好感が持てる。かえって電子楽器のクリアさが奏功していると個人的には思う。ちなみに、プリンスはこのアルバムを絶賛している。

 私は、スティービーで一番好きな曲はと聞かれれば、本アルバムの「ワン・オブ・ア・カインド」と答える。しかし、認知度は非常に低いだろう。

 そんなに電子楽器でスティービーの魅力が失われただろうか。

 週末にどーっと聞き直してみた。いいねー、スティービーは。黄金期4枚(組)もいいけど、やっぱり「キャラクターズ」が一番いい。「カンバゼーション・ピース」もいいな。「ホッター・ザン・ジュライ」もなかなか。

 たまにはアルバムを出しておくれ。ずっとレコーディング中とのハナシが有るだけで、陽の目を見ていない。

追記:
 この文章は「A Time 2 Love」発表前に書かれました。2003年のツアーレポートもご参照下さい。

Discography
 1962 The Jazz Soul of Little
 1962 Tribute to Uncle Ray
 1963 The 12 Year Old Genius
 1963 Little Stevie Wonder
 1963 With a Song in My Heart / わが心に歌えば
 1963 Workout Stevie Workout
 1964 Stevie at the Beach
 1965 Stevie Wonder
 1966 Uptight Motown
 1966 Down to Earth / 太陽の当たる場所
 1967 I Was Made to Love Her / 愛するあの娘に
 1967 Someday at Christmas / 想い出のクリスマス
 1968 For Once in My Life
 1969 My Cherie Amour / マイ・シェリー・アモール
 1970 Stevie Wonder Live / スティーヴィー・オン・ステージ
 1970 Signed, Sealed & Delivered / 涙をとどけて
 1970 Live at the Talk of the Town
 1971 Where I'm Coming From
 1972 Music of My Mind / 心の詩
 1972 Talking Book
 1973 Innervisions
 1974 Fulfillingness' First Finale / ファースト・フィナーレ
 1976 Songs in the Key of Life / キー・オブ・ライフ
 1979 Journey Through the Secret Life of Plants (soundtrack) / シークレット・ライフ
 1980 Hotter Than July
 1984 The Woman in Red (soundtrack) / ウーマン・イン・レッド
 1985 In Square Circle
 1987 Characters
 1991 Music from the Movie Jungle Fever (soundtrack) / ジャングル・フィーバー
 1995 Conversation Peace
 1995 Natural Wonder (Live)
 2005 A Time 2 Love


黄金期4作:
 「Talking Book」「Innervisions」「First Finale」「Key of Life」

 これが22〜26才なんだからすごいよな。なお、75年のグラミー賞受賞インタビューで、ポール・サイモンが「今年は、スティービーがアルバムを出してくれなくて助かった」と言ったのは有名らしい。キャラクターズがグラミーを取ってないのが気に入らないな。ま、評論家なんてそんなもん。ふんっ。


選外:

 Festival / SANTANA
  ラテンフレーバーあふれる名盤。冒頭3曲のメドレーがかなり好き。

 Virgin Killer / Scorpions
  ウリ(旧ウルリッヒ)・ロートのギターがいい。ドライブ感が抜群。曲もいい。

 Dr. Hee / Scott Henderson
  スコット・ヘンダーソン/トライバルテックからはこれを。現在廃盤。スコヘンは、ブルースアルバム2枚以外はほとんど持ってるんだけど、こいつは持ってない。どこかで見かけた方はご一報下さい。

 Seawind(海鳥) / Seawind
  ホーン隊がかっこいい。ワッチャ・ドゥーインは佐藤竹善もカバーしてるよ。

 Out of the Blue / Simon Philips
  ドラマーのソロアルバムは、イマイチなのが多い中、サイモン・フィリップスはどれもなかなかいい。ベスト的ライブ盤のこれを。

 Smokin' in the Pit / Steps (Ahead)
  アコースティック時代のステップス(アヘッド)。ピットインでのライブを収録したもので、香津美も参加している。ガッドはこのころまでは良かったんだよな。

 Public Access / Steve Kahn
  スティーブ・カーンも圭作揃い。比較的新しめ(全然新しくないって)のこれを。こいつはデイブ・ウェックル。あれ、ベースはだれだっけ。それと、昔のガッドのもいいよー。って別にドラマーで選んでるわけじゃないけど。

 Bring on the Night / Sting
  非常に選ぶのが難しいスティングは、初期のライブであるこれを。ドラムはオマー・ハキムですね。さてベースは誰でしょう。

 「S」は選ぶのが大変。。。

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Last Update : 2004/01/08