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第26回:W = Weather Report

8:30 / Weather Report (エイト・サーティー / ウェザーリポート 79年)

メンバー:
 Wayne Shorter(ss,ts), Joe Zawinul(key), Alphonso Johnson(b), Jaco Pastorius(b), Peter Erskine(ds), Erich Zawinul(perc "Brown Street" only)

収録曲:
 Black Market / (Scarlet Woman) / Teen Town / A Remark You Made / Slang / In A Silent Way / Birdland / Thanks For The Memory / Badia - Boogie Woogie Waltz / 8:30 / Brown Street / The Orphan / Sightseeing

 ウェザー・リポート(以下WR)は、マイルス・デイビス・バンド卒業生であるオーストリア出身のキーボード奏者ジョー・ザビヌル、サックスのウェイン・ショーターの2人と、チェコ出身のベーシスト、ミロスラフ・ビトウスが中心となって結成された。71年に1stアルバムをリリース。74年にビトウスが脱退し、ザビヌルとショーターの双頭体勢になる。76年「Black Market」製作中にベースのアルフォンソ・ジョンソンに代わりジャコ・パストリアスが参加。77年に名作「Heavy Weather」をリリースし全米ポップ(!)チャート30位という大ヒットとなる。さらにドラマー、ピーター・アースキンを加え「8:30」を発表し、黄金期を迎える。しかし81年、ジャコの2ndソロ「Word of Mouth」発表を機にビッグ・バンド・サウンドを目指すジャコ・アースキン組と他のメンバーとの音楽性の違いが明確になり、2人は脱退する。新たなリズム体にオマー・ハキム、ビクター・ベイリーを加え4枚のアルバムを発表するが、ソロアルバム「Atlantis」リリースを機にショーターが脱退し解散となる。

 WRから1枚選ぶのはなかなか困難であるが、黄金期のライブである本作にしてみた。

 WRは3つに分けられる。

1)前ジャコ期
2)ジャコ期
3)後ジャコ期

 WRは基本的にザビヌルのバンドである。当時やっと使い物になってきたシンセサイザーを用い、ワールド・ミュージックもしくは無国籍音楽といった感じの不思議なメロディとハーモニーを基本としている。それをパーカッション的なアプローチをするドラムとちょっとファンクなベースがサポートし、これまたみょーなショーターのサックスがそれに乗っかるという、他に類のない音楽性を有していた。これが前ジャコ期である。かなり「シンセ実験音楽」という要素が大きいと思う。この新しい(当時ね)楽器無くしてWRは存在し得ない。

 そこにロック、ポップ、R&Bといった要素をつぎ込んだのがジャコである。前ジャコ期に比べ聞き易いメロディーと、ドライブの効いたエレクトリック・フレットレス・ベースでポピュラリティーを得た。このジャコ期のWRはかなりポップで、いわゆる名曲はこの時代に集中している。たとえば「Birdland」を前ジャコ期のアルバムに収めたら、むちゃむちゃ浮いてしまうだろう。しかしザビヌルはみょーなポップさだ。ショーターは、前ジャコ期からさらにわけわからないものになっているし。そんなびみょーなバランスの上に構築されている。

 しかしジャコが抜けると、アプローチはやや前ジャコ期に近くなる。しかしテーマがはっきりとしており、ボーカルやボコーダーのフィーチャーが目立つ。リズムに重点がおかれ、パーカッションが重要な役割を演じていると思う。

 本作の特徴のひとつに、パーカッションが参加していないことがあげられるザビヌルは当時のインタビューで、パーカッションを入れると他の楽器のじゃまになると言っていた。これは、ジャコ期の音楽性としてはそうなのだろう。しかし、後ジャコ期には復活するのだ。

 人気のあるのはジャコ期であるが、自分としては後ジャコ期もいい。「Procession」「Domino Theory」はかなり好きである。このころのオマー・ハキムは良い。「Procession」は長い間、再CD化されなかったので出たときはうれしかった。ホントは「コレヲキコウ」もこれにしようかと思っていた。通常「Black Market」「Heavy Weather」「Mr. Gone」「8:30」「Night Passage」のジャコ期が勧められるが、後ジャコ期のアルバムも聴いて欲しい。

 ジャコのハナシだが、「Heavy Weather」がUSで500万枚売れたのに、自分の「Word of Mouth」は5万枚。WRが売れたのは自分のおかげだと思っていたろうしね。栄光から失墜。頭がおかしくなるのも無理ないよな。

 ところでみなさん、2枚組で持ってますか? US盤は1枚なんですが、2曲目の「Scarlet Woman」が入っていません。ぜひ2枚組を買って下さい。

Discography & Members, except for Wayne Shorter(ss,ts) and Joe Zawinul(key)

 1971 Weather Report
/ Miroslav Vitous(b), Alphonse Mouzon(ds), Airto Moreiro(perc)
 1972 I Sing The Body Electric
/ Miroslav Vitous(b), Eric Gravatt(ds), Dom Um Romao(perc)
 1977 Live In Tokyo (recorded in 1972)
/ Miroslav Vitous(b), Eric Gravatt(ds), Dom Um Romao(perc)
 1973 Sweetnighter
/ Miroslav Vitous(b), Herschel Dwellingham, Eric Gravatt(ds), Dom Um Romao(perc)
 1974 Mysterious Traveller
/ Alphonso Johnson, Miroslav Vitous(b), Ishmael Wilburn(ds), Skip Hadden(ds), Dom Um Romao(perc)
 1975 Tale Spinnin'
/ Alphonso Johnson(b), Leon Ndugu Chancler(ds), Alyrio Lima(perc)
 1976 Black Market
/ Alphonso Johnson, Jaco Pastorius(b), Chester Thompson, Narada Michael Walden(ds), Alex Acuna, Don Elias(perc)
 1977 Heavy Weather
/ Jaco Pastorius(b), Alex Acuna(ds,perc), Manola Badrena(perc)
 1978 Mr. Gone
/ Jaco Pastorius(b), Tony Williams, Steve Gadd, Peter Erskine(ds)
 1979 8:30
/ Jaco Pastorius(b), Peter Erskine(ds), Erich Zawinul(perc)
 1980 Night Passage
/ Jaco Pastorius(b), Peter Erskine(ds), Robert Thomas Jr.(perc)
 1982 Weather Report
/ Jaco Pastorius(b), Peter Erskine(ds), Robert Thomas Jr.(perc)
 1983 Procession
/ Victor Bailey(b), Omar Hakim(ds), Jose Rossy(perc)
 1984 Domino Theory
/ Victor Bailey(b), Omar Hakim(ds), Jose Rossy(perc)
 1985 Sportin' Life
/ Victor Bailey(b), Omar Hakim(ds), Mino Cinelu(perc)
 1986 This Is This
/ Victor Bailey(b), Omar Hakim(ds), Mino Cinelu(perc), Carlos Santana(g)


選外:

 JUJU / Wayne Shorter
  大好きなショーターからはこれを。曲がいいし、ドラムのエルビン・ジョーンズがいい。心からご冥福をお祈りします。それから「Atlantis」以降の電化ショーターも好き。意外と「Native Dancer」はあまり好きじゃ無かったりする。

 Standard Time vol.1 / Wynton Marsalis
  生きている音楽であったジャズを、伝統芸能にしたのはウィントン・マルサリスである。ってだれの言葉だったかな。やや意外めのこれを挙げよう。ジェフ・ワッツとロバート・ハーストのリズム体がいい。もちろんウィントンもすごい。「Black Codes」なんかも必聴。

 Full House / Wes Montgomery
  ジャズギターの巨匠。インクレディブル!

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Last Update : 2004/06/18