ト・チ・カ / 渡辺香津美
(TO CHI KA / Kazumi Watanabe 80年)
メンバー:
渡辺香津美, Joe Caro(g), Kenny Kirkland, Warren Bernhardt(Key), Marcus Miller, Tony Levin(b), Steve Jordan, Peter Erskine(ds), Michael Brecker(ts), Mike Mainieri(vib), Sammy Figueroa (perc)
収録曲:
LIQUID FINGERS / BLACK CANAL / TO CHI KA / COKUMO ISLAND / UNICORN / DON'T BE SILLY / SAYONARA / MANHATTAN FLU DANCE
53年渋谷の生まれ。エレキブームの真っ只中の中学時にギターを手にし、ベンチャーズや寺内タケシをコピーする。高校時にジャズギターに興味を持ち、中牟礼貞則に師事。今田勝に認められライブ活動を開始。71年、18才の若さにしてアルバム「Infinite」でデビュー。ジャズギタリストとして、自己のバンドや有名アーティストのサイドマンとして活躍する。当初はジャズのフィールドでの活動が主であったが、次第に音楽の幅を広め、一般に認知されるのはフュージョンブームの頃だ。78年、リー・リトナーのバンドとの共演を収めた「MERMAID BOULEVARD」を発表。79年、坂本龍一・矢野顕子・村上秀一らと「KYLYN BAND」を結成し2枚のアルバムを発表。YMOのワールドツアーに参加し、弾きすぎてクビ(後任は大村憲司)になるが知名度を上げる。80年、NY録音のアルバム「TO CHI KA」がヒット。名実共にジャズ・フュージョンの第一人者となる。その後も「KAZUMI BAND」「MOBO」「Spice of Life」「Resonance Vox」などのユニットで活躍。90年代は、アコースティック、ピアノやクラシックギターとのデュオ、オーケストラ、ギター組曲等々フォーマットにとらわれない多彩な活動を展開している。
いろいろ考えたが、出世作である本アルバムにした。
79年、香津美はブレッカーブラザーズのギタリストとして、NYのクラブで演奏していた。そこでマイク・マイニエリと知り合う。彼にアルバムのプロデュースを依頼すると快諾される。帰国後ずいぶんたってから、プロデュースのハナシはどうなったかとマイニエリに電話すると、とにかくニューヨークに来いと言われ渡米する。マイニエリの指示は、新たな曲作り。なので、ホテルでうだうだしながら作曲をする。できあがると、マイニエリが集めた当代の一流ミュージシャンでレコーディング。さっさと完了し、発売すると大ヒット。初回出荷は、インストルメンタル音楽として、当時では異例の20万枚だったが、あっという間に売り切れた。それが「TO CHI KA」だ。
本アルバムはいわゆる「フュージョン」という音造りになっている。どれも曲がきれいで、アレンジも素晴らしい。後々までライブで演奏される「SAYONARA」もはいってる。一般に、マーカス・ミラー/スティーブ・ジョーダンのリズム体が注目されがちだが、アースキン/トニー・レビンの「MANHATTAN FLU DANCE」がすごい。ドライブするドラム、へーんなベースライン、複雑なコード進行。昔やっていたのだが、そのときのギターはアドリブをほとんど放棄していた。このころのアースキンは元気だった。
ギタリストとしてみると、なかなか難しいヒトだ。音は暴れるし荒い。こんなラフなギタリストは珍しい。ところが、初期はきれいきれいなジャズ・ギターで、そのあとはリー・リトナーみたいなおとなしさだった。それがKYLYN BANDあたりから変わってくる。ギブソンL5でちゃらーっと弾いてた人が、レスポールでマーシャル直になるんだからすごい。スタイルを持つということに執着していたようで、この頃の香津美はホントに日本の音楽界をしょって立とうと思っていたそうだ。アーティストとして尊敬できる。
とはいえ、自分はこんなギターを弾きたいとは思わない。もちろん弾けないんだけどね。技術があっても弾けるとは思えないし。でも好きだ、ってのが面白い。その辺が矢堀孝一さんなんかと違うところだ。矢堀さんはこんな風に弾きたいというタイプ。いい意味でも悪い意味でも香津美と違う。比較的、ギタリストに香津美が好きでない人が多いのもよくわかる。
また、ギターをころころ変える。楽器はその人のトレードマークにもなるので、あまり変えない人が多いのだが、彼はホントによく変える。初期のギブソンL5、ES-335からレスポール。レスポールも、68年くらいの黒いのやアーティザンやスペシャルなどいろいろ。アレンビックにスタインバーガーGL-2T。YMOの頃はアリアのRS。最近も使っているポールリードスミスなんか、自分の1本だけは良くて他のはダメといった発言をしている。バレイアーツのエンドースでアーチドトップテレキャスター、ジャガーもどきのKW。パーカーに移籍したり、パット・マルティーノで有名なエイブ・リベラに作ってもらったり。今はコンバットのSTウォームってのを使っているが、いつまで保つか。
本作に収められた「UNICORN」は日立ローディーのCMで使われたのだが、実はCM版は本作の前に違うメンバーで録音されている。そのメンバーは坂本龍一(key), 村上ポンタ秀一(ds), 高水健司(b) であった。私も最近まで知らなかった。
お勧めは本作と「MOBO」「The Spice of Life」「Pandora」あたりか。「MOBO」はNYのスタジオで、テープを回しっぱなしにしてとにかく録って、あとで切った貼ったでつないだという問題作。「The Spice of Life」はビル・ブラッフォード、ジェフ・バーリンというプログレリズム体とのコンビネーションがいい。「Pandora」はバカボン鈴木と東原力哉という暴れん坊リズム体だ。
とはいえ、このところの活動はややついていけないなという感がある。もう少し、メジャー指向なバンドをやってもいいんじゃないかなとは思う。その方法論には本人が飽きてるのかなという気はするんだけどね。しかしながら、「KYLYN BAND」「KAZUMI BAND」「MOBO III」なんかの再編、というのは望んでない。でも「RESONANCE VOX」はちょっと見たいな。
Discography
1971 Infinite
1974 MONDAY BLUES
1975 Endless Way
1976 MILKY SHADE 渡辺香津美カルテット
1977 OLIVE'S STEP
1977 LONESOME CAT
1978 Village in bubbles
1978 MERMAID BOULEVARD KAZUMI & THE GENTLE THOUGHT
1979 KYLYN KYLYN BAND
1979 KYLYN LIVE KYLYN BAND
1980 TO CHI KA
1980 TALK YOU ALL THGHT KAZUMI BAND
1981 DOGATANA
1982 GANESIA KAZUMI BAND
1983 MOBO
1984 MOBO倶楽部 MOBO倶楽部
1985 桜花爛漫 MOBO倶楽部
1985 MOBO SPLASH
1987 The Spice of Life The Spice of Life
1988 The Spice of Life 2 The Spice of Life
1989 Kilowatt The Spice of Life
1990 Romanesque
1991 Pandora RESONANCE VOX
1992 O・X・O RESONANCE VOX
1993 RESONANCE VOX RESONANCE VOX
1994 自業自得(Live) RESONANCE VOX
1994 おやつ (acoustic)
1995 おやつ2 〜遠足 (acoustic)
1996 Esprit
1998 Dandyism with 小曽根真
1999 One for All
2000 Dear Tokyo with オーケストラ
2001 BEYOND THE INFINITE ギター組曲
2003 Guitar Renaissance 完全ソロギター
2003 MO'BOP
2004 MO'BOP II
2005 Guitar Renaissance II 夢
2006 Guitar Renaissance III 翼
2006 MO'BOP III
2006 Asian Super Guitar Project
2007 Guitar Renaissance IV 響
2009 Jazz Impression
best, omnibus
1996 TOKYO JOE
1997 Better Days of Kazumi Watanabe
1997 KAZUMI's Music File 84-94